チネイザンコラム:水深100mでの呼吸と内臓

山田が所属している日本チネイザン協会ウェブサイトに第3回目のコラムを寄稿しました。こちらにも同じ内容を掲載いたします。


夏になると思い出さずにいられない映画があります。伝説のダイバー、ジャック・マイヨール(1927-2001)をモデルにした物語『Le Grand Blue』(伊・仏/リュック・ベンソン監督/1988年)です。

彼は酸素ボンベを使用しない無呼吸潜水=フリーダイビングで、人類で初めて100m超えの記録を出した人です。
当時の医学界や生理学上の常識では、「水深40m、潜水時間3分を超えれば、肺は水圧で押しつぶされ確実に死ぬ」と言われていました。

いったい何が「不可能」の壁を超えさせたのか?
単に息をこらえる能力だけではないはず。。
ジャック・マイヨールの呼吸は?
身体機能は?精神は?
俄然興味が湧きました。

調べてみると、生理学的にはこういうことでした。

・人が潜水すると、反射的に心拍数は低下する。多くのフリーダイバーは、深く長く潜るためにそういった反射システムを日々鍛える。また、水中での酸素の消費を抑えるべく、恐怖心やわずかな心の動きまでも取り払う。
・内臓を外側にも内側にも柔らかくする。海深く潜った時、肺はなんとオレンジ大くらいまで縮む。
・ジャック・マイヨール自らモデルになった実験では、イルカやアザラシなど水棲哺乳類に見られる「ブラッドシフト」と呼ばれる現象が人間でも起こりうることが判った。
「ブラッドシフト」とは――ふだん血液は偏ることなく全身を巡っているが、水圧が高まった時、無意識のうちに血液循環を心臓・肺・脳などの重要器官に集中させる反応。

内臓のフレキシブルな働きに、まず驚きます。
ジャック・マイヨールがヨガによる呼吸法を身につけていたことは知られています。禅も学んでいました。加えて、彼は親友(!)のイルカから呼吸や身体の使い方を学んでいたのです。
「人間はふだん、ほとんど無意識で呼吸を行っている。水中でもこれと同じ状態になるのが理想。つまり、息をするのと同じように、息をしないのも無意識になるのである」
と著書の中に呼吸哲学が書かれています。

そんなふうに環境に溶け込んで息をする(しない)って、とっても気持ち良さそうだと思いませんか!

ついつい身体の神秘にフォーカスしてしまいましたが、『Le Grand Blue』に話を戻すと・・・題材、スト―リー、映像、音楽、すべてが心を打つ映画です。公開当時はカルト的人気を呼んだとか。私もこの映画に影響を受け、スキンダイビングを習いに行ってしまった一人です。

Photo by Jakob Owens on Unsplash

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