力みを生む「意識」

姿勢や歩き方を意識してつくろうとしていませんか?

立っている時や歩いている時、少しでも姿勢をよく見せようと肩甲骨を寄せてみたり、お腹に力を入れてみたり、真面目な人ほど意識をもって頑張る傾向にあります。
でも、その意識、いったい何分もち続けられましたか?
疲れて5分と保たないかもしれません。もしくは、10分後にはだらしない姿勢に戻ってしまい「あぁ、私の意識が足らないからだ。もっと意識して姿勢を正さないと!」そんなふうにダメ出しまで始まるのです。

スポーツ科学や運動学習の分野では、運動時の「意識」を下のように分類しています。

内的焦点(Internal Focus = IF):
「お腹に力を入れる」「足を前に出す」など、自分の身体の部位や筋肉の動きに意識を向けること。

外的焦点(External Focus = EF):
「床のラインに沿って歩く」「30m先のターゲットを見る」など、身体の外側にある目標や動作の結果に意識を向けること。

そして、多くの研究では「内的焦点=身体への意識」を持つと、本来は自動でスムーズに行われるはずの運動制御を邪魔してしまう、ということがわかっています。力みがパフォーマンスが低下させるのです。

にもかかわらず、運動指導の現場ではいまだに
「お腹に力を入れて!」
「お尻の穴を締めて!」
「母趾球に力を入れて!」…etc
といった筋肉の動きそのものに意識を向けさせるような内的キューイング(指示)がとても多いなぁ、と残念に思います。YouTubeで「正しい歩き方は…」なんて言っている動画を探すと、いくらでも例が見つかります。

もちろん、外的焦点=正、内的焦点=悪、という単純な話ではなく、内的焦点が有効な場合、必要な場合もあります。下に挙げたような興味深い研究もあります。「頭で考えながら体を動かす」状態が、脳の認知負荷(パニック状態)と身体の硬直を招くことがデータとして実証されたものです。ただし高齢者ではあまりこの傾向が見られなかったとのこと。推測ですが、高齢になるとデフォルトで身体の硬直が起きやすいので内的焦点を使ってもあまり差が出ないのでは、という気がします。

若年成人グループと高齢者グループで、2メートルの棒を持ちながら、ベースライン(指示なし)と内的焦点のそれぞれの条件下で、困難なバランス課題を実行。
結果は、若年成人において、内的焦点を採用することが脳の「言語・分析領域(T3)」と「運動計画領域(Fz)」の間の同調性(コヒーレンス)を過剰に高め、姿勢制御に悪影響を及ぼす可能性を示した。しかし、高齢者では条件間の有意差は認められなかった。

引用元:若年成人および高齢者における内的集中力とバランス制御の関係性の再検討
Revisiting the Relationship Between Internal Focus and Balance Control in Young and Older Adults
Chow VWK, Ellmers TJ, Young WR, Mak TCT, Wong TWL. Revisiting the Relationship Between Internal Focus and Balance Control in Young and Older Adults. Front Neurol. 2019 Jan 9;9:1131. doi: 10.3389/fneur.2018.01131. PMID: 30687212; PMCID: PMC6333651.

トレーニング=力を入れる、ではない

あくまでもケースバイケースではありますが、私は運動指導する際に、できる限り外的キューを採用するように心がけています。
「壁にむかって、鼻で大きな8の字を描いてください」(頸椎のスムーズな動きを獲得するため)
「このゴムバンドに負けないように、両腕で抵抗してください」(呼吸ワークの際に、肩で息をするのを防ぐため)
のような感じです。

上半身が反り気味の姿勢で、背中がガチガチに硬い人がいたとしましょう。
「右の広背筋を思い切り伸ばしてください」という意識的なストレッチではなくて、「右のお尻を後ろのポールに近づけて」「右手はビールの缶をつかむように、左前方に」「お腹は床ではなく天井のほうに」といった誘導の仕方です。
その結果として
「うわー、腕の付け根が伸びます。わき腹から腰にかけても伸びます!」(立ち上がって)「腰がラクです」というような反応が引き出せればOKです。どこがどう伸びたかの説明は後付けです。
※ターゲットは何もビールの缶でなくて良いんですけどね。

自然でのびやかな動きのために

日常生活で気を付けて欲しいことがいくつか。
・内的焦点をもち過ぎない。姿勢や歩行動作をコントロールしようと思わない。
・ずっと背筋をピンと伸ばしていなくていいので、身体を自由に動かす。
・テレビで言っている「正しい歩き方」を鵜呑みにしない。フォームをどうこうしようとする時点で「待てよ?」と思ってスルー欲しい。
・トレーニングや運動時は外的焦点を取り入れて。
 →その結果、起こる身体の反応や感覚に意識を向けるのは良いことです。

姿勢維持や歩行は、無意識下で行われる運動パターンが大部分を占めます。うまく動くように最初から設計されているわけです。良いトレーニングをすれば、必ず力みが抜けてラクに動けるようになります。
あれこれ考え過ぎず、身体を信頼してOKです。

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